Aromatopia 46
フリーテーマ アーティクル
ハイドロサームマッサージシステムを取り入れたアロマセラピー
井上裕美子

Aromatopia 46
フリーテーマ アーティクル
井上裕美子

私が、こちらロンドンの中心地にあるヘルスクラブやヘルススパに勤めて約3年が経ちました。私の通う女性専用ヘルススパは常にトリートメントの予約でいっぱいなので、セラピストは1日に約10名またはそれ以上ものクライエントを抱えることなど珍しくはありません。そのため、セラピストは腱鞘炎やR.S.I.(Repetitive Strain Injury)と呼ばれる親指から手首にかけて、また肘の故障に悩まされることも少なくはないのです。これは、手首の関節を正常な範囲を超えて伸展させ、その状態で自分の体重が加わることが要因の1つと言われています。その他の原因としては、親指を使ってツボを押す時の親指と人差し指の間の角度や、親指をクライエントの体に向ける方向にも問題があると考えられます。特に、手を休めることなく何人ものクライエントをかかえるということは、大変負担がかかります。またさらに、上手く膝を曲げずにウエスト部分から体を曲げた状態や、腰がよじれた状態でマッサージをしてしまうと腰痛を引き起こすこともあります。実際に、腰痛持ちのセラピストの話もよく耳にします。カレッジでマッサージを学んでいる頃は、先生からの適正なアドバイスが得られますので、さほど気にもなりませんでしたが、実際に知人から話を聞いたり、自分の体に故障を来したりして初めて問題点に気がつくことも多いのです。
そのような問題を解消したのがハイドロサームマッサージシステムです。まだ日本では馴染みの薄いものですが、英国にあるヘルススパ、ヘルスクラブ、スポーツクリニック、オステオパシーやカイロプラクティックのクリニック等でハイドロサームマッサージシステムが取り入れられています。統計によると、毎年、約500名がハイドロサーム施術者としてトレーニングを受けているそうです。英国の他、オランダ、オーストリア、ベルギー、南アフリカ、オーストラリア、アメリカ、そしてカナダでも今ではこのシステムが取り入れられています。
ハイドロサームというマッサージシステムは、英国人のスポーツセラピスト、ジョン·ホルマン氏が1992年に開発しました。彼は、4年間従来どおりのやり方で施術を行った結果、いわゆる親指から手首にかけて痛みを伴うR.S.I.や腰痛に悩まされ始めました。手の痛みや腰痛は次第に増すばかりでしたが、彼は自分のキャリアを諦めることができなかったのです。そこで何とかよい方法はないかと考えた結果、今までのやり方とは全く正反対の方法、主にクライエントの体重を利用することで、セラピストの体に対する負担を減らせることに気が付きました。その結果、お湯を入れたクッションを使ってのハイドロサーム(Hydrotherm)というマッサージシステムをデザインしたのです(ハイドロ、Hydro=水、サーム、Therm=熱)。ハイドロサームシステムを利用したマッサージは、セラピストにだけではなく、クライエントにも利点があるため、急速に市場に広まったと考えられます。
ハイドロサームマッサージシステムは、英国にあるHTS(International)Ltd.のみが世界中に供給しています。マッサージに使用するクッションは、血液や血漿用のプラスティックバッグとほとんど同じ素材でできているので、健康を害することはありません。また、表面は摩擦も少なく、耐久性がよく、とても長持ちします。その上、軽量で小さく折りたためるので、持ち運びにはとても便利です。クッションは、マッサージオイルや潤滑油にも強く、温度が加わると表面が柔らかくなるので、とても心地良いものです。クッションは55度までの熱に耐えられるようにできています。製品には鉛、バリウム、カドミウム等一切含まれてなく、リサイクルも可能なので、環境にもとても優しいものであると知られております。
前述にも紹介したとおり、クライエントの体重を利用して行うこのマッサージはセラピストにとって大変利点があります。施術中は、クライエントがマッサージベットに仰向けの状態で全身のマッサージを受けられるので、セラピストは常に手のひらを上に向け、手から手首そして肘にかけてはまっすぐの状態でマッサージをすることができます。この方法は従来のマッサージとは異なり、手や手首そして肘へかかる負担がなくなるというわけです。また、妊婦(12週間以上)、老人、ケガや障害をもった人、腰痛をわずらっている人、喘息をわずらっている人、閉所恐怖症の人、何らかの理由でうつ伏せに寝ることのできない人、そして赤ちゃんに対するマッサージ方法としても効果的なシステムなのです。フェイスホールや腕の置く位置に対する苦痛感からも解消されます。私の所属するヘルススパでは、特に月曜日が「プレグナンシーデー(妊婦の日)」となっているので、このトリートメントを希望する方で殺到します。現在、このトリートメントのできるセラビストが限られているので、毎週月曜日には、私は1日中妊婦を抱えることがしばしばあります。実際にハイドロサームのマッサージを受けられた方々から、大変喜んでいただいております。
なお、ハイドロサームはお湯を入れたクッションを使用するため、筋肉の緊張の緩和を早め、また血管拡張を増加させるので、オイルの吸収もより早くなります。それに加え、従来のマッサージでは部屋の温度にも大変気を使わなくてはなりませんでしたが、このクッションにより常にクライエントの体を温めることができます。特に冬場は、ブランケットやたくさんのタオルを用意する必要がありません。
まずマッサージを行う前に、2つの大きなクッションに、それぞれ30度~40度のお湯を9~12リットル入れ、1つはクライエントの肩からヒップの下に、もう1つは足の裏側に設定します。膝の裏には、腰椎のサポートをするエアークッションを、お湯の入ったクッションの下に置きます。そして、頭の下には、後頭部をサポートする枕(高さの異なる3種の枕からクライエントの体に合わせて選びます)を置きます。このように、クライエントは仰向けにマッサージベッドの上に寝たまま施術を受けることができるというわけです。
クライエントには、両手をクッションの下に置くようにアドバイスすることを忘れてはなりません。なぜなら、マッサージにオイルを使用するため、クッションからすべり落ちてしまう危険性があるからです。さらに注意しなければならないことは、まずクライエントの姿勢、(骨格)を充分に理解しておくこと、背中や足の裏側に傷、痣、ほくろなどはないか、また、特に足の裏側に静脈瘤がないかを確認しなくてはなりません。もしほくろがある場合は、絆創膏であらかじめ覆う必要があります。静脈瘤の場合、だいぶ炎症が見られるようでしたら、その部分を避けなければなりません。炎症がさほどないようでしたら、エフラージュのみで血液の循環を助けてあげます。
禁忌事項としては、リウマチ性の疾患を伴う人、熱に対して弱い人があげられます。なお、クッションに入れるお湯の温度は90分毎に5度の熱が失われますので、1日に何人もマッサージする場合は温度を必ず確かめ、必要であれば1部または全体のお湯を入れ替えし、温度をあげなければなりません。なお、クッションには温度計がついているので、簡単に温度を確かめることができます。


通常、ハイドロサームシステムのマッサージにアロマセラピーのオイルを使用する場合は、ブレンドの濃度を1.5%にします。これは、熱による血管拡張が増大し吸収度が高まる上、揮発度も高まり、普段よりも匂いがきつくなるからです。言い換えれば、濃度の少ないオイルでも効果は抜群ということになります。
クッションに入れるお湯の温度は35度が平均ですが、特に妊婦の治療には30度以下に設定しなければなりません。たいていは最初にクライエントに温度の確認をするのみで問題はありませんが、人によっては、マッサージ中に急速に体温が上がるため、途中でクッションに水を継ぎ足すことも必要となります。また妊娠期に、仰向けになると気分が悪くなってしまう方もいるので、その場合は膝下の腰椎サポートを取って横向きに寝てもらう必要があります。私の経験からも、最初は本人も大丈夫だと思っても、マッサージ中にかなり体温が上がり、気分を害することがほんの数件ありました。ほとんどの方は問題ありませんが、常に飲み水をトリートメントルームに用意しておくことをお勧めします。
妊婦に対するアロマセラピーは、実際にはコース中にはそれほど厳格には言われなかったのですが、個人的には0.5%濃度以下にするようにしています。しかし実際には、妊娠する以前からアロマセラピーの治療が非常に好きだった等、アロマセラピーにこだわる方以外は、キャリアオイルのみを使用したハイドロサームマッサージを選択する人の方が多いようです。妊婦によっては、とても神経質で、約30度のお湯により胎児に影響があるのではないかと、不安を抱く人も時々おります。基本的には、母体が熱に耐えられるのであれば、問題はないのですが。これは、最近イギリスで、マッサージと関係はないのですが、流産する率が高まっていることも背景にあるのだと思います。残念ながら、知識不足も手伝って、たくさんの誤解を招いています。実際に、オイル会社が積極的に1日講習会を開くなど、ヘルススパなどに勤務するビューティセラピストが受講後すぐにクライエントを取るケースがしばしばあります。アロマセラピーといっても、当然セラピストによるプレンドしたオイルではなく、オイル会社から一商品として売られる、すでにブレンドされたアロマセラビーオイルを使用しているのです。ですから、彼らにはエッセンシャルオイルひとつひとつの効能など知る余地もないわけです。それに比べ、私達はアロマセラビストとして訓練を受け安全性も充分に理解しているので問題が生じることはありません。またほとんどのアロマセラビストが、それぞれアロマセラビー協会に所属をしているので、誤解を伴った噂に流されることなく、オイルに対する正しい情報がすぐに入手できるのです。
以前に、アロマセラビーは流産の危険性があるので、どのエッセンシャルオイルも妊娠中には使用してはならないなどという、全く不本意な噂が流れたことがありました。これを耳にした時は、私や同僚のアロマセラビストはとても驚き、残念に思いました。このように消費者が耳にする噂も事実に反するものがあり、正しい知識がないため混乱を招いていると言わざるを得ません。そのため、以前よりもより神経質になる妊婦が増えたのもおかしくはないのかもしれません。私達アロマセラビストは、常に分かりやすく正しい知識を彼女らに提供する使命にあるとも言えます。
私がハイドロセラビーマッサージシステムを知るきっかけとなったのは、1999年7月に会社を通して研修に行ったことから始まります。実際に研修期間中にセラピスト同士で練習をしてみて、セラビストが手首や指に負担をかけないでつはを抑えることができることを知って、感動したことを今でも明白に覚えています。また、腰にかかる負担が少なくなったことも事実です。妊婦に対するマッサージに関しても、これまではたくさんのタオルをクッションとして使用しなければなりませんでした。また妊婦に限らず一般の方々からも大変評判が良く、筋肉の緊張がよりほぐれ、非常にリラックスできると大喜びしてトリートメントルームを後にする人がほとんとです。今まで私が出会ったクライエントで満足できなかった方はいないと言っても過言ではありません。中には知人にも推薦すると言って下さった方も少なくはないのです。実際に、このトリートメントをするようになってからは、ますます妊婦との付き合いも多くなりました。彼女らの体から伝わる2つの異なるエネルギーをこの手で感じ、またこの手で母体と胎児両方からのコミュニケーションを図ることができる喜びを隠さずにはいられません。
ハイドロサームシステムと出会ったおかげで、従来の技術に加えさらに可能性が広がったことは、自分自身とても利点であるとつくづく思います。将来、日本でも皆さんにご紹介できる日を夢に見て、この辺で筆を置きたいと思います。



RQA所属アロマセラビスト&BRA所属リフレクソロジスト
1998年3月大妻女子短期大学英文科英文実務科を卒業後、日本や英国にて大手企菜、旅行会社そして制作会社勤務を経て様々な職業を経験する。1994年9月から約3年ハーバートハウスにてアロマセラピーを勉強した後、1997年7月に渡英をし、ティスランド、インスティテュートに留学。その後、ベイリースクールにてリフレクソロジーも勉強。その他、インディアンシャンプサージ、マニュアルリンファティックドレナージュ、霊気、ハイドロサームの資格を取得。また、ホスビスケア、アドバンスクリニカルアロマセラピー、エッセンシャルエナジェティック&オリエンタルダイアグノシスコースも勉強。現在は、シロンセンターにてボディサイコセラピーを勉強する榜ら、ヘルススパやホスピス勤務に加え、母校での講師アシスタントを務めている。