アロマトピア誌79号
フリーテーマアーティクル
We will introduce natural therapies such as aromatherapy and herbs, and provide research presentations and reports from practitioners both in Japan and abroad.
バイオダイナミック·マッサージ(Biodynamic Massage)
井上裕美子

アロマトピア誌79号
フリーテーマアーティクル
We will introduce natural therapies such as aromatherapy and herbs, and provide research presentations and reports from practitioners both in Japan and abroad.
井上裕美子

ノルウェー人である臨床心理学者兼物理療法者、ゲルダ·ボイセン(GerdaBoyesen,1922-2005)によって紹介されたバイオダイナミック·マッサージ(BiodynamicMassage)は、ボディーサイコセラビストが取り入れている技法で、精神生理学的方法(Psycho-PhysiologicalMethod)です。バイオ(Bio)は生命(Life)から、ダイナミック(Dynamic)は動き(Movement)の意味から引用されています。いわゆる生命力(Life-Energy)は、身体面だけでなく、精神面や感情面でも強く流れているのです。バイオダイナミック(Biodynamic)という用語は、調和のとれた生命力の流れによる、本来備わった自然の健康や幸福を伴う生活の過程を描写しています。生命力が何らかの形で妨げられると、痛み、精神面や感情面での障害や疾病を引き起こしてしまうのです。
ゲルダ·ボイセン(以下ゲルダ)は、1922年5月18日にノルウェーで生まれ、2005年12月29日にロンドンで息を引き取りました。ゲルダの葬儀は、2006年1月4日にロンドンのリッチモンドにある、モートレイク火葬場で行われました。その後、ゲルダの遺骨はデンマークにある家族のお墓へと移送されました。
ゲルダは、自身の子供に、独裁主義的な教育をしないように常に心がけてきた女性でした。彼女は人間の成長過程を理解するために、1947年に心理学の学位を取得しました。心理学の勉学を通して、オラ·ラクネス(OlaRaknes:以下オラ)、ニック·ワール(NicWaal)、ハブレヴォール博士(Dr.Havrevoll)、そしてヴィルヘルム·ライヒ(WilhelmReich:以下ライヒ)がノルウェーに亡命中(1934-1939)、彼から訓練を受け、身近で仕事をしてきた全ての精神分析者と知り合いました。ゲルダは、ライヒ流精神分析法をオラから学びました。オラは、ライヒが米国移住後、ヨーロッパ中にライヒ流身体精神分析方法を広めた最も重要な存在です。ゲルダは、心理学の学位やライヒ流精神分析法の勉強を終了後、精神病院で臨床心理学者として働き始めました。しかし、ゲルダはこれだけでは満足がいかず、身体を解剖学的そして生理学的にもっと深く理解をしたいと思い、物理療法者としての資格も取得しました。更に、アーデル·ビューロー·ハンセン(AadelBulowHansen)によって紹介された、神経筋のマッサージ方法(Neuro-MuscularMassage)をも学びました。そして、この技法が、それ以前に習得した物理療法の技法よりももっと効果的な方法であるということを発見しました。その後ゲルダは、ビューロー·ハンセンクリニックで、ライヒの影響を強く受けた精神科医トライグヴェ·プラアトーイ(TrygveBraatoy)と協同で働き始めました。そこでゲルダは、人の無意識的な感情にマッサージを通して影響を及はすことが可能であることを見出しました。また、クライアントの感情の状態がどのように身体の姿勢の変質を変えるのかを明らかに見ることが出来ました。これら全ての勉学や経験により、ゲルダの精神と身体の結ぴつきにおける理解が構想されたのです。
1968年、ゲルダは、ライヒ流ボディーサイコセラピストの第一人者としてロンドンにやって来ました。彼女は、バイオダイナミック·サイコセラピー、バイオダイナミック·サイコロジー、そしてバイオダイナミック·マッサージを展開し始めました。70年代には、西ロンドンのアクトンにゲルダ·ボイセンセンターを設立し、そこに世界中の人が訪れ、彼女の下で訓練を受けました。そして、ロンドンを拠点とし、ヨーロッパ全般に足を伸ばし、セラピストの養成や講演に力を入れて来ました。現在は、プラジル、フランス、ドイツ、オランダ、デンマーク、ポルトガル、イスラエル、スイス、米国、オーストラリア、そしてベネズエラを含む多くの国で、バイオダイナミック·スクールが設立され、実施されています。ゲルダの3人の子供たち、エバ(Ebba)、モナ·リサ(MonaLisa)、そしてポール·ボイセン(PaulBoyesen)も著名なセラピストであり、それぞれの学校を運営しています。1992年には、ゲルダ·ポイセンセンターは英国サイコセラピー評議会による養成団体に加盟し、1999年には、ゲルダはヨーロッパボディーサイコセラピー協会の名誉会員となりました。
ゲルダは、バイオダイナミック·サイコセラピーを生涯の仕事とし、多くの人の人生に変化を与える影響を及ぼし、深い愛情を注いで来ました。そしてクライアントからとても感謝されて来ました。
バイオダイナミック·サイコセラピーは、ボデイーワークとサイコセラピーを併用した技法であり、我々の感情、精神そして身体のプロセスは常に互いに依存するということが前提にあります。我々は、身体的に、筋肉の緊張や呼吸の制限が見られ、“難しい”感情によって窮地に陥りがちです。これは、断絶感を引き起こし、人生に好反応を起こす能力を制限してしまいます。しかし、我々の精神や身体が柔軟になり始めると、過去に鎮圧された感情に触れることが出来るようになるのです。そして、本来持っている生き生きとした自分を得ることが出来、また、我々が誰であるのかという深い認識が得られます。これは、単なる感情的で理知的な経験だけではなく、身体的にも感じることが出来るのです。
ゲルダは、身体の本来のストレスを消化する方法、腸の中での精神学的蠕動(Psycho-Peristalsis)を発見し、今日のボディーサイコセラビーに莫大な貢献をしました。
ゲルダは、胃腸の道(GItract)を見出し、これは、オーストリアの精神医学者、シグムンド·フロイト(SigmundFreud,1856-1939:以下フロイト)や他の精神分析学者による理論であるイド·カナル(idcanal)と、実際に生物学的に同等であり、サイコセラピーでは、識別する要素にあるとしています。イド·カナルは、歴史的に心理学的概念として重要視されてきました。フロイトの生徒である、ライヒは、無意識の心理状態は、身体的明示があるはずであり、身体を通して神経症を治療していくべきであると唱えています。しかし、残念ながら、ライヒはこれといった事実をつかむことが出来ませんでした。臨床心理学者としてのゲルダは、彼女の研究を通して、胃腸の道は、生物学的かつ心理学的機能の2性質を持ち、身体的、感情的、そして精神的な健康を維持することに関連があり、きわめて重大なものであることが分かりました。この機能は、精神学的蠕動として知られています。精神学的蠕動は、腹部に聴診器を当てることにより、観察することが出来ます。
ニューヨークにあるコロンビア大学のマイケル·ガーション博士(Dr.MichaelGershon)による細胞生物学の最近の研究で、消化管の重要性が確認され、彼は、胃腸の道は第二の脳であると唱えています。またガーション博士は、胃腸の道は、事実上の神経伝達物質を備えているため、消化管と脳の間の器質性結ぴつきは、40年間に渡るバイオダイナミック·サイコロジーの根源である理論を確信するものであると発表しています。ガーション博士の研究は、科学的消化管の根本原理とゲルダの精神学的蠕動の理論との結びつきを確証するものとなりました。
身体の治癒のメカニズムである精神学的蠕動を通しての回復は、健康に向かう本能的生命力の流れであり、ホメオスタシスや自己制御をもたらすものです。このような治癒機能は、神経や感情的ストレスの副産物を消化するものであり、人間の身体や精神の治癒の原点なのです。
健康的な人は、感情を表現することが出来、困難な感情的因果関係を解決し、平和や安心感を得ることが可能です。しかし、自己制御や、自然治癒力の本質的な能力を失ってしまうと、神経症や疾病を引き起こしてしまうのです。
バイオダイナミックの施術者は、この損失を回復させたり、最小限に抑えたり出来る様、訓練を受けます。彼らは、言語だけでなく、他のサイコセラピー方法であるボディーワーク、ベジトセラピー、オルゴノミー、ディープ·ドレイニング、バイオダイナミック·マッサージ、そしてオーラやバイオ·フィード上のエナジー·ワークを併用することが可能です。
バイオダイナミック·マッサージは、骨、筋肉、皮膚そしてオーラ上に適用することが出来ます。各トリートメントの目的は様々であり、クライアントの必要とするものに重点を置いています。例えば、身体の体液、血液、リンパ液、分泌物、水分による体のむくみや膨張に作用し、または、感情の臀部である内臓にも働きかけ、身体から発散され、身体を取り巻くエネルギーのフィールド(バイオ·フィールド)や、筋肉、呼吸、そして関節にも作用を及ぼします。
バイオダイナミック·マッサージを施術する際、聴診器(現在は、電子聴診器を多く使用)を腹部に置き、身体の言語に耳を傾けます。この身体の言語を、クライアントも聞くことが出来ますが、クライアントによっては、これらの音に不快感を得る場合があり、セラビストがヘッド·ホンを使用することも可能です。聴診器を通して聞こえてくる音が、精神学的蠕動であり、セラビストから受ける様々なマッサージ方法に反応を示すのです。セラビストは、これらの様々な音から、身体のどこに、過去のどのような感情が抑制され、遮断されてしまったのかを知ることが出来ます。そして、身体的な解放や、心理学的な統合を導き、身体内のエネルギーが自由に行き来できるようにするのです。熟練したセラビストにより、精神学的蠕動が確立され、促進されることが、バイオダイナミックの施術において最適条件だと言えます。セラビストは、過去の未完結の感情的周期、過去のショックにより身体に残った感情を取り除く手助けをし、身体にトラップしたエネルギーを解放して行くのです。これは、感情的理解や共感を覚えるだけでなく、身体的解放をももたらします。
バイオダイナミック·マッサージの基本的訓練は、全部で3年間のコースであり、ボディーサイコセラピーの訓練の一環となっています。マッサージをしながら問答を伴う点では、他のマッサージ方法と異なり、これはフレームワークであると言えます。セラピストは、クライアントとの信頼関係を築きながら、クライアントにとっていかに安心の置ける空間を築いていくのかが、重要な鍵となる訳です。

3年間のバイオダイナミック·マッサージのコースを終了後、私自身のマッサージのテクニックにも変化が見られるようになったと言っても過言ではありません。身体面だけではなく、精神面でもより理解を深めるようになりました。まず、クライアントの身体をよく観察することから始まり、筋肉のつき具合、皮膚(組織)の状態、体温、そして呼吸方法等から身体内のエネルギーの状態を知ることが出来、電子聴診器を使用することにより、クライアントの感情をより感知することが出来るようになったことは、とても興味深いことです。
サイコセラピーの技法を取り入れたトリートメントは、セラビストが敵になる状態がしばしばあり、クライアントの感情をいかに支えていくかが、今後の私の重要な課題です。セラピストとして、そして私自身も精神的にもっと成長していきたいと思います。
