アロマトピア誌82号
フリーテーマアーティクル
アロマテラピーやハーブなどの自然療法の紹介や研究発表など、国内外の実践者からの報告をお伝えします
アルガンオイルとづラッククミンシードオイル
井上裕美子

アロマトピア誌82号
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アロマテラピーやハーブなどの自然療法の紹介や研究発表など、国内外の実践者からの報告をお伝えします
井上裕美子

昨年、2006年は縁があって、モロッコへ2度も足を運ぶ機会がありました。モロッコといえば、ローズウォーターでもよく知られ、これが家庭の医学として使用されていますが、近年は、300トンものエッセンシャルオイルを生産し、ヨーロッパや米国を始め、他国へ輸出しています。モロッコの家庭では、古くからアラブメディスンが取り入られており、340種もの芳香性の植物を使用しています。今回は、モロッコだけでなくこちら英国でも注目を浴びている2種のオイル、アルガンオイルとプラッククミンシードオイルについてご紹介します。おそらくアルガンオイルについては、日本でも耳にした方も少なくはないかと思います。
アルガンオイルの特性について、1219年にエジプト人の名声内科医であるイブン·アル·バイタール(IbnAlBaytar)により初めて文献に残されました。しかし実際には、1510年、旅行家であるレオ·アフリカヌス(LeoAfricanus1485-1554)により、世界中に紹介されました。かつてアルガンの木は北アフリカやヨーロッパ南部に生存し、1771年にはその標本がアムステルダムのバドミントンへ持って行かれ、レディー·ビューフォート(LadyBeaufort)により栽培されてきました。しかし、現在は、モロッコ南西部約86万ヘクタールに及ぷエサウイラ(Essaouira)~アガディア(Agadir)間のみに約2100万本が生存していると言われています。1999年には、ユネスコにより生物圏遺産に登録されました。
アルガンの木は、乾燥した半砂漠地帯に生息し、雨のほとんど降ることのない季節には休眠をし、そして、雨が降る頃に再生する性質を持っています。また、50度までの温度下で生存することも出来ます。アルガンの木は、単一の樹幹から、いくらかからみついたもの、そして太い幹をもつものまでバラエティーに富んでいて、10メートルの高さまで生長します。そして、200~250年もの寿命があり、50年~60年の生息後にほとんどの果実をつけます。春には、アルガンの木は小さな緑黄色の花を咲かせ、緑のオリープよりやや大きめで丸い果実が実り、熟成すると黄色に変化します(写真1)。1つの木に約8kgの果実がなります。夏にはそれらは乾燥して黒色に変わり(写真2)、地面に果実が落ち始め、ひとつひとつ手で収集されます。通常、これらの果実は、モロッコ森林樹コミッションに属している一般の土地に見られます。収集を仕事として代々受け継がれてきた家族に権利が与えられ、彼らの住居を置く場所から近い範囲内のみ果実の収集を許されています。収穫の3カ月前からは、動物にアルガンの木を食べさせることが固く禁止されます。この木には、鋭くとがったとげがあり、手摘み出来ないように果実を守っている特徴が見られます。しかし、過去に多くのヤギがこの木に登り、果実をむさぼり食う光景が見られ、木の牧草地と呼ばれてきました。最近は、森林管理者によりヤギが果実を食べることを禁止し、もしオーナーが規則を守らなければ、罰金を問われるようになりました。
アルガンの果実は、1つ、2つ、もしくは3つのアーモンド大の仁果がとても硬い殻に覆われていて、ベルベル族の女性たちが2つの石を使い、手でひとつひとつ殻を割っていきます。おそらく10~20時間も費やし、彼女らは、やっと1リットルのアルガンオイルを生産する充分なだけの堅果を取り出すのです。オイルを摘出した後の仁果には、チョコレート色をした甘いペースト状のものが残り、砕いたアーモンドと蜂蜜に加え、“アムルー(Amlou)”の材料として使われます。これはベルベル人の朝食には欠かせないもので、パンにつけるものとして食卓に上がります。ピーナッバターに似た味がするそうです。そして、果肉はヤギに与えられ、第二品等のオイルは、ランプの火を灯すために使用されます。最後に残った種は家畜に与えられます。更に、外皮は陶製のパンオーブンの燃料、約30分間のたきつけに利用されるといった、無駄のない使い方が施されます。アルガンの木は、エサウイラ産のはめ込め式箱の生産にも使用されます。

図1.アルガンの果実(春頃)

図2.アルガンの果実(夏頃)
ベルベル族は、北アフリカにアラブ人が訪れる以前に住居を置き、約4000年以上もの古い歴史、文化を築いてきました。ベルベル州は、古代、モーリタニアやヌミディアとして知られてきました。11世紀~13世紀の間、主に2つの偉大なベルベル王朝である、アルモラービデとアルモアデがスペインのほとんどの領地とアフリカ北西部を支配してきました。今日では、主なベルベル族は、モロッコ、アルジェリアに居を置き、少数がチュニジア、リビヤ、そしてエジプトに見られます。モロッコの40パーセントの人口がベルベル人で占められており、その他多くは、先祖がベルベル族であるようです。彼らは、公式には認められておりませんが、独自の言語を話します。
ペルベル人は、木の実の香りに富みピリッとした感のあるアルガンオイルを、パンにつけるだけでなく、クスクス料理やサラダ等の調味料として幅広く家庭料理に取り入れ、また女性の髪、肌、爪のケアにも使用してきました。その他、アクネ、乾燥した湿疹、乾癣、水痘、あらゆる種類の傷跡の治療、妊娠線の予防、関節や筋肉の痛みの治療にも伝統的に使用してきており、今でも家庭の医学として取り入れています。
アルガンオイルは、食用とスキンケア用が市場に出ており、日本でも購入することが可能です。アルガンオイルはオリーブオイルよりも2倍にあたるビタミンE、そして抗酸化剤を多く含んでいます。ビタミンEや肌を和らげるサポニンは、老化現象を手助け、肌の水分を含む脂質層を回復させることによりしわの形成を妨げ、肌の炎症を静め和らげます。抗酸化剤は、遊離基の中和をもたらし、寒い冬に風や太陽にさらされた肌を守ります。その内の80%の不飽和酸には、細胞の流動性に影響を及ぼす8種の必須脂肪酸を含み、肌の保湿をし、鼻の内側、肺、消化器系そして脳に働きかけます。また、体液の粘着性の減少、血行の改善、体内のコレステロール値や血圧を抑え、心臓発作から守ります。その他、人間の身体内では生産出来ない、リノール酸(オメガ6)を、34~36%も含んでいます。また、植物油としてはとても珍しい、ステロールを含み、プロスタグランジンの形成を助け、痛みや腫れを減少させます。これは、関節炎やリウマチの症状によく効くと言われています。ただし、怪我してじくじくとした肌の使用は避けなくてはなりません。
最後に、株式会社サンクによる公式ウェブサイトによると、アルガンオイルの成分は、オイレン酸(約43.8%)、リノール酸(約37.2%)、パルチミン酸(約12.4%)、ステアレン酸(約5.5%)、リノレン酸(約0.1%)、不鹸化成分(トコフェロール類、ステロール類、トリテルペン類、ポリフェノール類)(約1.0%)と提示されています。
ブラッククミンは、ツタンカーメンの墓に発見されたことで知られ、古代エジプトの信奉にいかに重要であったかが分かります。古代エジプト人には、ブラックシードが万能薬として知られ、古代ローマ人の間では、グリークコリアンダーとして親しまれてきました。旧誓約書の中にあるイザヤ(Isaiah)書に、ブラッククミンシードのことが記載されております。イーストン(Easton)の聖書辞典によると、ヘブライ語でケトサ(ketsah)は、ブラッククミンのことであり、キンポウゲ科の野生植物であり、1世紀にギリシャの内科医によって、頭痛、鼻の鬱血、歯痛、そして腸の寄生虫の治療に使用されてきたことが記録に残っています。また、彼は、利尿剤として使用し、月経促進や、母乳の生産に役立つことも記載しています。更に、約1400年以前に預言者の医学で、預言者モハメッド(ProphetMohammad)はハディース(Hadith)の中に、プラックシードオイルは、死病以外のあらゆる疾患に効能があると述べています。イスラム教学者であるアルビルニ(Albiruni;973-1048)は、インド、中国医学の起源について論文を発表しましたが、彼は、ここにブラックシードのことにも触れており、シグジ語(Sigzi)でいうアルワナック(Alwanak)と呼ばれる穀物であると言っています。後に、スハー·バハット(SuharBakht)により、シグジ穀物(SigziGrains;Habb-I-Sajzi)が、10~11世紀には栄養学上これが使用されていたことが分かっています。ヒポクラテスによって発見されたギリシャ·アラブ法医学の中で、同時代の医師や、イプン·シーナ(IbnSina;980-1037)によって肝臓や消化器系疾患に重要な薬であると認識されています。イブン·シーナの東洋または西洋医学の有名な文献『TheCanonOfMedicine』に、ブラックシードは、身体のエネルギーを向上させ、疲労や意気消沈した症状の回復に効果があると言っています。近年の学術研究によると、ほとんどの病気は、免疫システムのアンバランスまたは機能不全によるものだと言われておりますが、ブラックシードが免疫システムを高める効果があるということが学術的に理解されています。

図3.ブラックシードの花
ブラックシードは、一年生の草本植物であり、もともと地中海沿岸の地域に生息しておりましたが、今ではアラビア半島、北アフリカ、オーストラリア、そしてアジアの一部にも耕作されています。これは、調理によく使用されるハーブのクミンとは異なることを念頭に置いておかなくてはなりません。ブラックシードは、とても小さく毛状であり、長さ3mm以下です。これは、キンポウゲ科のクロタネソウのことですが、しばしば、ハープのフェンネルと混同されやすいようです。下部の葉は、小さく柄があり、上部の葉は長く約6~10cmの長さまで生長し、内側が青紫で白色の花を咲かせます(写真3)。実がなり成熟するころには、約30~46cmまで生長します。成熟した果実の包が開くと、中の白い種が空気に触れ、次第に黒色に変化します。ブラックシードはその土地により、別の名前で呼ばれることがしばしばあるようです。
1959年以来、国際的に大学で200件以上のブラッククミンシードオイルの研究がなされ、ジャーナルでもその情報が掲載されてきました。1986年には、ミュンヘンの免疫学者である、ビーター·シュライハー博士(Dr.Med.PeterSchleicher)によりこのオイルの研究が進められ、炎症を抑制するプロスタグランジンE1が、アクネ、花粉症、様々な炎症や真菌感染から癌の治療まで幅広く適用できることが文献に提示されました。その後、ミュンヘン大学のリエットムーラー教授(ProfessorG.Rietmuller)は、免疫システムに効果のあるこのオイルを生体調節として適用できることに注目してきました。また、皮膚病学者であるマイケル·ミューラー教授(ProfessorMichaelMeurer)は、長年の経験から炎症を抑える効果を認識し、神経組織にも効果があると確信しています。近年ニューデリーで行われた国際癌研究評議員会では、このブラッククミンシードオイルが、多くの科学者や医者に、抗腫瘍作用があることで紹介されました。また、このオイルが骨髄や免疫性セルに働きかけるため、癌の治療だけでなく、エイズやその他免疫低下による疾患に役立つのではないかと注目を浴びています。ブラックシードは、伝統的に中東や極東で何世紀にも渡り使用されて来ましたが、内用、外用の両方に適用でき、喘息、気管支炎、風邪、インフルエンザ、カタル、黄疸、リウマチやそれに関連した炎症、消化器系疾患、腎臓、肝臓機能の向上、利尿効果、免疫システムの向上、そして母乳の生産増加の目的に使われています。また、ブラックシードオイルは、湿疹、せつ、おでき、乾癬等の皮膚の疾患、そして頭皮のマッサージにも使用されています。
プラッククミンシードオイルには、不飽和酸や必須脂肪酸、特にリノール酸が豊富に含まれており、また、わずかではあるがリノレン酸も含まれていることから、これらは、免疫システムの向上やアレルギー反応を抑制するのに役立っています。約50%の必須脂肪酸に加え、約30%がオイル、約20%が蛋白質や炭水化物で占めています。そのうち、1.4%のエッセンシャルオイルは、46.8%のバラシメン、21.1%のカルボン、7.7%のベータビネン、7.4%のアルファビネン、5.5%のサビネン、そしてその他11.5%のエッセンシャルオイルで占めています。1.5~5%の揮発性オイルのナイジェロンやサイモシノンは、抗ヒスタミン、抗感染性、気管支を広げる効果があります。また、ブラッククミンシードオイルは栄養価の高いオイルでも知られています。
この季節、風邪がもの凄くはやり、何週間も咳きが止まらない、その後、嘔吐をもよおした等、あちらこちらでこのようなことを耳にします。我が家でも、普段からホメオバシーのレメディーを取り入れているものの、咳き込み始めたら止まらない状態が続きました。これに合わせて、ブラッククミンシードオイルを飲み始めてから、大分症状が緩和し始めました。実は、このオイル、昨年ある知人から紹介していただいたもので、これほど重宝するものだと思わず、今ではとても感謝しております。こちら英国でもどの薬局からもプラッククミンシードオイルが簡単に手に入ると言う訳ではないようですが、流通はしているようです。もちろん、ブラッククミンシードオイルも、アルガンオイルもモロッコに行けば、手軽に購入出来ますが、すべてのお店に純なオイルを置いている訳ではなく、混ぜ物のオイルを純正と謳って商売をしている人たちも少なくはないようですので、注意しなくてはなりません。最後に、両者とも外用だけでなく、内服も出来ること、また単なる薬としてではなく普段の食事に取り入れることが出来ることに利点が感じられると思います。
